物体の落下

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問題:1.0mの高さから物を落としたとき、落下時間はどれほどかかるか。また2.0mのときは、どれほどかかるか。

  • 問題の落下する時間は測定できるのだから、実際に測定してみればよい。

    この問題のように、速度をつけずに(下に投げたりせずに)落下させる運動のことを、自由落下という。

    このページでは、まず、実験によって落下する距離と落下時間との間にある関係を求める。次に、実験によって求めた距離と時間の式から、速度と時間、加速度と時間の式を求める。さらに、運動方程式を使って、物体に加わる力から、実験で求めた順とは逆に、加速度と時間の式、速度と時間の式、距離と時間の式を求める。最後に、地球上で重力加速度を測定するとき、場所や時間によって、どれほど変わるかを考える。

    このページの構成は以下のようになる。

    (1)落下時間の測定・距離と時間の式の導出
    (2)速度と加速度
    (3)運動方程式
    (4)地球上での重力加速度

  • 落下時間の測定

    配線をハサミで切ることで落下させ、アルミ箔で作ったスイッチが押されるまでの時間を測定した。

    動画:

    結果:(見出しの数字は落下させた距離(m:メートル), 表中の数字は落下にかかった時間(ms:ミリ秒,千分の一秒))

    0.1000.2000.3000.4000.500
    1回目144200247275323
    2回目136191243282320
    3回目143196244290317
    4回目151202249286308
    5回目138200246272321
    0.6000.7000.8000.9001.000
    1回目351383401426453
    2回目351378399430452
    3回目350381407429460
    4回目356376407428460
    5回目351374403428451
    1.1001.2001.3001.4001.500
    1回目474495518538553
    2回目470500514536557
    3回目479500519536557
    4回目475494521535555
    5回目471496510538553
    1.6001.7001.8001.9002.000
    1回目573588602621646
    2回目569591600621646
    3回目574588604601634
    4回目573584607616643
    5回目573575595619643

    距離と時間の式の導出

    落下時間の値として、5回の実験結果の中央値を計算に使う。例えば、0.100mから落下させたときの落下時間は、小さい順から並べた測定値が136,138,143,144,151なので、中央にある143msを計算に使う。中央値を使う理由は、実験装置自体の精度がよく本来の誤差はものすごく小さいと考えるからである。ハサミできれいに切れなかったなど、ある一つの要因で大きく誤差が出る。中央値を使うことで、誤差が含まれている測定値を捨て、誤差が比較的出ていないと考えることのできる測定値を採用することができる。

    下の図は、xt座標上に中央値をプロットしたものである(青の点)。

    プロット画像

    グラフの赤の曲線の式を求めたい。すなわち、プロットした点の近くを通る曲線の式を求めたい。

    ここで、x(落下距離)とt(落下時間)との関係式が、x=at^2+bt+c・・・・・・(式A)で表されると仮定する(a, b, cは適当な定数)。

    注:b=0, c=0としない理由。t=0のとき(すなわち落下が始まっていないとき)、移動距離x0なので、c=0. また、この式を微分して、速度と時間の式を求めると、v=2at+b. t=0のとき、速度v0なので、b=0. このように考えて、b=0, c=0としてもよい。しかし、測定装置の不備により常に距離が短めになっている場合や、常に測定時間が本来の時間よりも短くなっているといった場合が考えられる。この点を考慮するため、定数b, c0せずに計算する。

    式A: x=at^2+bt+cの定数をを最小二乗法により求める。

    高さiから落としたときの、落下距離をx_i, 落下時間をt_iとおく(落下距離は中央値を使う)。例えば、0.100mから落下させたときは、x_{0.100}=143, t_{0.100}=0.100となる。

    落下時間がt_iのとき、式Aにより落下距離の理論値xを求めるとx=at_i^2+bt_i+cとなる。この理論値xと中央値x_iとの距離が短ければ短いほどよい。そこで、xx_iの差d_iの二乗、すなわちd_i^2=(x-x_i)^2をとる。全ての高さiに対してd_i^2を求め、その和F=\sum d_i^2が最小になるようなa, b, cを求める。

    注:xと中央値x_iとの差を小さくしたいのだから、単に、\sum |d_i|が最小となるa, b, cを求めてもよいのだが、二乗して絶対値をはずしたほうが計算が簡単である。二乗の和でずれを評価すると、大きくずれているところが少なくなるというメリットもある。

    Fが最小となるには、\cfrac{\partial F}{\partial a}=0, \cfrac{\partial F}{\partial b}=0, \cfrac{\partial F}{\partial c}=0が必要である。(\cfrac{\partial F}{\partial a}は、偏微分を表す記号で、b, cは固定してaで微分する、という意味)

    したがって、

        \begin{eqnarray*} \cfrac{\partial F}{\partial a} &=& \cfrac{\partial}{\partial a} \sum d_i^2 \\ &=& \cfrac{\partial}{\partial a} \sum (x-x_i)^2 \\ &=& \cfrac{\partial}{\partial a} \sum (at_i^2+bt_i+c-x_i)^2 \\ &=& \sum \cfrac{\partial}{\partial a} (at_i^2+bt_i+c-x_i)^2 \\ &=& \sum 2t_i^2(at_i^2+bt_i+c-x_i) = 0 \\ \end{eqnarray*}

        \begin{eqnarray*} \sum t_i^2(at_i^2+bt_i+c-x_i) &=& 0 \\ \sum (at_i^4+bt_i^3+ct_i^2 -x_it_i^2) &=& 0\\ a\sum t_i^4+b\sum t_i^3+c\sum t_i^2 &=& \sum x_it_i^2 \end{eqnarray*}

    \cfrac{\partial F}{\partial b}=0, \cfrac{\partial F}{\partial c}=0についても同様に計算すると、次の三元連立一次方程式が得られる。(この方程式を最小二乗放物線に対する正規方程式という)

        \begin{eqnarray*}   \begin{cases}     a\sum t_i^4+b\sum t_i^3+c\sum t_i^2 = \sum x_it_i^2 & \\     a\sum t_i^3+b\sum t_i^2+c\sum t_i = \sum x_it_i & \\    a\sum t_i^2+b\sum t_i+nc = \sum x_i &   \end{cases} \end{eqnarray*}

    (ただし、n\sum 1=(iの個数))

    Fとそれを微分した関数は連続関数であり、\frac{\partial^2 F}{\partial a^2}=\sum 2t_i^4>0, \frac{\partial^2 F}{\partial b^2}=\sum 2t_i^2>0, \frac{\partial^2 F}{\partial c^2}=2n>0であるから、極値は上の連立方程式を満たす一組しかなく、極値は最小値になっていることがわかる。

    この連立方程式を解くと、a, b, cの値が得られる。

        \begin{eqnarray*}   \begin{cases}     a = 4.95 \times 10^{-6} & \\     b = -4.89 \times 10^{-5} & \\    c = 1.05 \times 10^{-2} &   \end{cases} \end{eqnarray*}

    これで、x=at^2+bt+cの関係式を求めることができた。上図の赤の曲線はこの式のグラフである。

    この式をx=a(t+\frac{b}{2a})^2-\frac{b^2}{4a}+cによりx-q=a(t-p)^2の形に変形すると、

        \begin{eqnarray*} x- 1.06 \times 10^{-2} =4.95 \times 10^{-6} (t - 4.83 )^2 \end{eqnarray*}

    実際の落下距離をx_{\text{true}}, 実際の落下時間をt_{\text{true}}とすると、x_{\text{true}}=at_{\text{true}}^2という関係になるはずである。これと上の式をくらべることにより、実際の落下時間は、測定値よりも5msほど短かったと推測できる。また、実際の落下距離は、測定値よりも1cmほど短かったと推測できる。

    測定値のずれを省き、msをsに書き直すと、次のようになる。

    実験のまとめ

    落下する距離x(m)と落下する時間t(s)との間には、

    (1)   \begin{equation*} x=5.0t^2 \end{equation*}

    という関係がある。

    (実験の値より、)1.0mの高さから物を落下させると、落下時間は、およそ0.45秒。2.0mの高さから物を落下させると、およそ0.64秒かかる。・・・・・・(答え)

    参考:OpenOfficeのCalcファイル
  • 速度と加速度

    (1)式より、x=5.0t^2. ここで\frac{1}{2}g=5.0とおくと、x=\frac{1}{2}gt^2となる。(この定数g= 10.0は重力加速度と呼ばれる。重力加速度gは測定場所によって変化するが、標準重力加速度というものが定められており、普通はその値を使う。標準重力加速度の値は、9.80665~\text{m/s}^2である。)

    速度vは、落下距離xを時間微分すれば求まるので、次のようになる。

        \[v=\frac{dx}{dt}=gt\]

    これは、時間tのときの瞬間の速度がgtになる、ということである。この式より、1秒後の瞬間の速度は1g\fallingdotseq 9.8~\text{m/s}である。(1gと書いたのは、単にgと書いたとき、単位\text{m/s}^2と読み間違えられるの恐れがあるため。1に1”秒”という意味を持たせ、誤読を防いでいる。)

    瞬間の速度は平均の速度の極限である。瞬間の速度の意味がよくわからなければ、例えば次のように考える。1秒後から1.01秒後の平均の速度は、\frac{\frac{1}{2}g\cdot 1.01^2-\frac{1}{2}g\cdot1^2}{0.01}=\frac{0.01005g}{0.01}=1.005gとなる。時間幅を0.01→0.001→0.0001と小さくしていけば、平均の速度は、瞬間の速度1gに近づいていく。(この瞬間の速度を求める操作が微分という操作である。)

    加速度aは、速度vを時間微分すれば求まるので、次のようになる。

        \[a=\frac{dv}{dt}=g\]

  • 運動方程式

    運動方程式(運動の第二法則)から、式(1): x=\frac{1}{2}gt^2を求める。

    ニュートンの運動方程式

    物体の質量mと、物体の加速度aと、物体に加わる力Fとの関係は次の式で表される。

        \[ma=F\]

    加速度aは、位置xの二回微分と定義される。残りの質量mと力Fは初登場である。

    物体には、その物体固有の質量mというものがある。質量mは、大きさしかもたない量である(方向を持たない。このような量をスカラーと呼ぶ)。もし力Fが一定であれば、質量mが大きいほど、加速度a=\frac{F}{m}の大きさは小さくなる。

    Fは、大きさと方向を持つベクトル量である。質量mの物体が加速度aで運動していれば、そこには力F=maが働いている。

    運動方程式ma=Fは次の役割を持つ。

    (1)maFとの関係を示す。
    (2)力Fを定義する。

    運動方程式が担う役割は多いのだが、とりあえずは、関係式ma=Fが使えればよい。

    落下する物体には加速度a=gが発生する。したがって、力Fは運動方程式より、F=ma=mgである。したがって、落下する物体には質量mに比例した力が加わることがわかる。

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    ここで、落下していない物体、すなわち、静止している物体にも力mgが加わっているとしたらどうだろう? しかし、物体に加わる力Fは、a=0より、F=m\times 0=0である。この場合、物体には、机などから-mgと力mgを打ち消す力が働いていると考える。このようにして、物体に加わる力の和(合力(ごうりょく))Fmg+(-mg)=0とする。運動方程式の力Fは物体に加わる力をすべて足し合わせた合力である。

    さて、物体に力F=mgが加わっているとしよう。このとき、物体の加速度aは、運動方程式より、ma=mg. したがって、a=gである。これを積分すれば速度vが得られる。

        \begin{eqnarray*} v&=&\int \frac{dv}{dt} dt \\ &=&\int a dt \\ &=&\int g dt \\ &=&gt + v_0 \end{eqnarray*}

    (v_0は積分定数。ここでは、t=0での速度(初速度)を表す)

    ここから、さらに物体の位置xを求めるには、速度vを積分すればよい。

        \begin{eqnarray*} x&=&\int \frac{dx}{dt} dt \\ &=&\int v dt\\ &=&\int (gt+v_0)dt\\ &=&\frac{1}{2}gt^2+v_0t+x_0 \end{eqnarray*}

    (x_0は積分定数。ここでは、t=0での位置を表す)

    実験では、初速度v_0=0, 初期位置x_0=0だったので、これを代入すると、x=\frac{1}{2}gt^2. 式(1)を運動方程式より求めることができた。

  • 地球上での重力加速度

    地球上で重力は、次の要因によって、場所や時間により異なる。

    (\Delta gは重力加速度の最大誤差。単位: \text{m/s}^2)

    (1)地球の自転。

        \[\Delta g=3.4\times10^{-2}\]

    (2)標高。

        \[\Delta g=2.7\times10^{-2}\]

    (3)地球が回転楕円体の形をしている。

        \[\Delta g=1.8\times10^{-2}\]

    (4)地球内部の質量分布の不均一。

        \[\Delta g=5.9\times10^{-4}\]

    (5)月。

        \[\Delta g=1.1\times10^{-6}\]

    (6)太陽。

        \[\Delta g=5.0\times10^{-7}\]

    (7)その他の天体。

        \[\Delta g=10^{-12}\]

    この項目は、筆者が勉強中のため、未完成です。誤りが含まれていると思うので、あまり参考にはしないでください。次回更新日:未定。

    (1)地球の自転

    地球は、およそ1日(86164~\text{s})で一回転(2\pi~\text{rad})している。地球上にいる観測者は、この自転による遠心力を感じることになる。遠心力による加速度は角速度を\omega, 半径をrとすると、r \omega^2で与えられる。したがって、赤道上(赤道半径=6378137~\text{m})で観測者が感じる遠心力による加速度は、

        \begin{eqnarray*} \Delta g &=& 6378137\times\left( \frac{2\pi}{86164} \right)^2 \\ &\fallingdotseq&6378137\times\left( \frac{2\times3.14}{86164} \right)^2 \\ &=&0.03388\ldots\ldots \\ &\fallingdotseq&3.4\times10^{-2} \end{eqnarray*}

    赤道上では、北極南極と比べると、この加速度\Delta gの分だけ重力を小さく感じる。

    遠心力の影響

    (2)標高

    世界で一番高い山エベレストの標高\Delta rは、約8850~\text{m}である。地球半径Rは約6370000~\text{m}で、地心重力定数GM(万有引力定数Gと地球の質量Mとの掛け算)は約3.99\times10^{14}なので、

        \begin{eqnarray*} \Delta g &=& \frac{GM}{R^2}-\frac{GM}{(R+\Delta r)^2} \\ &=& \frac{GM}{R^2}-\frac{GM}{R^2+2R\Delta r+\Delta r^2} \\ &\fallingdotseq& \frac{GM}{R^2}-\frac{GM}{R^2+2R\Delta r} \\ &=&\frac{GM(R^2+2R\Delta r)-GMR^2}{R^2(R^2+2R\Delta r)} \\ &=&2GM\frac{R\Delta r}{R^2(R^2+2R\Delta r)} \\ &=&2GM\frac{\Delta r}{R^2(R+2\Delta r)} \\ &\fallingdotseq&2GM\frac{\Delta r}{R^3} \\ &=& 0.0273\ldots\ldots \\ &\fallingdotseq& 2.7\times10^{-2}  \end{eqnarray*}

    エベレストの山頂にいる人は、浜辺にいる人(=標高0m)に比べて、この加速度\Delta g分だけ重力を小さく感じる。

    1回目の\fallingdotseq記号と2回目の\fallingdotseq記号を書いた計算では、R>>\Delta r(R\Delta rと比べて非常に大きい)を利用し、\Delta rを含む項を消去している。1回目の計算では、2R\Delta rの項を消去していないが、これを消去すると最終的な答えが大きく変わるためである(消去してしまうと答えが0になる)。消してよいかの見極めが出来ない場合は、消さないでおいて、計算が進んで消してもよいと判断できた段階で消せばよい。2回目の\fallingdotseq記号を書いた計算で、2\Delta rの項を消去しても答えはほとんど変わらないことは、具体的な数字を代入するなどして少し考えれば分かるだろう。

    (3)地球が回転楕円体

    地球は真ん丸の球ではなく、すこしつぶれた形をしている。地球が完全な球であるとすると、地球上にある物体は遠心力により、赤道方向に引き寄せられてしまう。地球が回転楕円体の形をしているので、地球上にある物体は静止できる。

    楕円だと転がらない

    地球は赤道方向に膨らんでいるので、赤道上では地球の中心からの距離が大きくなる。したがって、赤道と極では、地球の中心からの距離が長い赤道上のほうが、重力が小さい。

    この影響\Delta gは、赤道における重力\gamma_{\text{e}}9.83218637, 極における重力\gamma_{\text{p}9.78032677であるので、自転による重力加速度の影響を\Delta g_{\text{spin}}とすれば、

        \begin{eqnarray*} \Delta g&=& \gamma_{\text{e}}-\gamma_{\text{p}}-\Delta g_{\text{spin}} \\ &=&9.83218637-9.78032677-0.03391579\\ &=&0.01794381\\ &\fallingdotseq&1.8\times10^{-2} \end{eqnarray*}

    赤道上では、北極南極と比べると、この加速度\Delta g分だけ重力を小さく感じる。

    (注)地球の質量分布を均一とみなし、地球の自転を考えると、地球の形は回転楕円体になる。(これを求める計算は高度になるため、今は解説しない。ヒント:ルジャンドル関数を使う。2014年末までにはこの計算の解説を公開するつもりである)\gamma_{\text{e}}\gamma_{\text{p}}は正規重力とよばれるもので、地球を回転楕円体とし、さらに地球の自転による遠心力を考えたときの、重力である。

    (4)地球内部の質量分布の不均一

    地球には、凹凸があり内部構造も不均一であるため、地球を質量分布が均一な回転楕円体とみなした場合と比べて、重力分布に差がある。

    もし地球に陸地がなく、全て海だったとしたときの海水面をジオイドという。ジオイドは等ポテンシャル面である(ジオイド上では重力一定)。地球内部の質量分布が不均一なため、ジオイドも回転楕円体と比べると、凹凸がある。

    ジオイドと回転楕円体との間の高低差をジオイド高という。ジオイド高は-106~\text{m}から+85~\text{m}の値をとる。

    したがって、質量分布の不均一による重力加速度への最大の影響\Delta gは、(2)標高での計算結果とジオイド差\Delta r=191を利用して、

        \begin{eqnarray*} \Delta g &=& 2GM\frac{\Delta r}{R^3} \\ &\fallingdotseq& 5.9\times10^{-4} \end{eqnarray*}

公開日:2013年6月1日 最終更新日:2013年12月27日