問題:次の式の値を求めよ。
(1)
(2)
(3)
(4)数列がの値に収束するときの、
-
このページでは、数列の極限値について考える。
数列の極限値を考えるということは、簡単に言えば、数列が最終的にどのような値に近づいていくか、ということを考えることである。例えば、(1)の問題は、のとき、数列が、を無限に大きくしていくとき、どのような値に近づくか、ということを考えさせる問題である。
この問題を解くために、ε-N論法(イプシロン-エヌろんぽう)で、極限値の定義を行い、基本定理の証明を行う。その後に、それぞれの問題について考える。
このページの構成は以下のようになる。
(1)数列の極限値の定義(ε-N論法)
(2)極限の基本定理
(3)問題の解答 -
ε-N論法による極限値の定義
という式の意味は、”を限りなく大きくするとき、は値に限りなく近づく(もしくは一致する)”という意味である。例えば、としたとき、を大きくしていくと、はに限りなく近づく。このようなとき、と書ける。ちなみに、となるとき、数列はに収束(しゅうそく)するという。
“限りなく大きく”や、”限りなく近づく”という言葉をそのまま使って、極限値の定理を証明するのは、難しい。この難しさを回避するために、ε-N論法(イプシロン-エヌろんぽう)という、不等式を使って極限を定義する方法が生まれた。ε-N論法のおかげで、微分積分学の基礎となる極限を厳密に定義することができ、微積を論理的に確かなものにすることができる。
ε-N論法による極限値の定義
数列が数に収束するとは、すべてのに対して、ある自然数がとれて、自然数がならばが成立する、ということである。
もしくは、全称記号と存在記号を使って次のようにも表せる。
論理記号を使った極限値の定義
数列が数に収束するとは、次が成立するということである。
論理記号の読み方
上の論理記号の読み方を説明する。
は、”すべての正である(イプシロン)に対して”という意味である。によっての範囲を限定し、さらに全称記号を付けることで、後に出てくる式はすべての(任意の)で成立するということを表している。
は、”後に書かれている式を満たす自然数が存在する”という意味である。は自然数全体の集合を表す記号である。(は自然数の集合の要素であるという意味)と書くことで、が自然数であることを表現している。これに存在記号を付けることで、この後に続く式を満たすが存在することを表している。
は、such thatの略で、”どのような”が存在するかということを後の式が説明することを表している。で、「BとなるようなAが存在する」という意味である。
は、”すべての自然数に対して”という意味である。はが自然数であることを表している。これに全称記号を付けることで、後に続く式がすべての自然数に対して成立することを表している。
は、ならばであることを表している。
以上のことを踏まえ上の論理記号を日本語に訳すると、先にあげた定義のようになる。
ε-N論法の考え方
ε-N論法では、任意の(イプシロン)とそれに対する適当なの2つの変数が重要な役割を持っている。は正の実数であれば何でもよいのだが、大きいに興味があるのではなく、小さいに興味がある。は、”どんなに小さいに対しても”という意味なのである。そして、非常に小さいに対して、ある大きなを用意する。この大きな以上のであれば、どんなに対してもの値との値の距離(差の絶対値)がより小さくできる。もし、このようなが、どんな小さなに対しても用意できるのならば、十分に大きいをとれば、ととの距離をいくらでも小さくできるといえるのだから、数列は数に収束するといえる。ε-N論法は、このような考え方である。
例題
最後にε-N論法を使って問題を解こう。
問題:次の式の値を求めよ。
=10, 100, 1000…のとき、=0.1, 0.01, 0.001…となるから、はを大きくすると、に近づくだろうと予想できる。
(解答)
任意のに対して、自然数を、となるようにとることができる。このとき、すべてのである自然数に対して、
以上より、任意のに対して、ある自然数がとれ、自然数がならば、であるといえたので、である。
(解答終わり)
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基本定理
収束と有界
収束する数列は有界である。
有界であるとは、無限に大きくなったり無限に小さくなったりしない、ということである。例えば数列は有界である。0以上1以下の範囲に収まっている。しかし、数列は有界ではない。いくらでも大きくなってしまう。数列が、適当な数を用いてと書ければ、数列は有界である。例えば、数列の場合、と書け、有界である。(は、数列のすべての項が-1以上1以下に収まるという意味)
(証明)
数列が数に収束するとする。このとき、ある自然数をとって、ならばとなるようにできる()。したがって、とすれば、とできる。ゆえに、収束する数列は有界。
(証明終わり)
極限の計算の基本定理
, のとき、次の式が成り立つ。
(1)
(2) (ただし、は定数)
(3)
(4) (ただし、)
注:下の証明を読む前に、三角不等式が分からない場合は下のほうにスクロールして、どのようなものか確認しておくこと。
(1)
(証明)
任意のに対し、適当な自然数, をとって、のとき、のときとできる。, のうち大きいほうををおけば、のときとできる。したがって、
任意のに対して、自然数を、のときとなるようにとることができたので、与式は成り立つ。
(証明終わり)
(2) (ただし、は定数)
(証明)
任意のに対して、自然数を、のとき、となるようにとることができる。このとき、
任意のに対して、自然数を、のときとなるようにとることができたので、与式は成り立つ。
(証明終わり)
(3)
(証明)
数列は収束するから有界であり、ある正の定数をとって、とすることができる。さらに、任意のに対して、適当な自然数, をとり、のとき、のときとすることができる。, のうち大きいほうをにとり、とすると次のように計算できる。
任意のに対して、ならばとなるような自然数をとることができたので、与式は成り立つ。
(証明終わり)
(4) (ただし、)
(証明)
数列は数に収束しなので、十分大きなをとれば、のときとできる。これを変形すると、
さらに、任意のに対して、ならばとなるような自然数がとれ、また、ならばとなるようながとれる。これらの自然数, , のうち一番大きいものをとし、自然数がを満たすとすると次のように計算できる。
任意のに対して、のときとなるような自然数をとることができたので、与式は成り立つ。
(証明終わり)
三角不等式
任意の実数, に対して次の式が成り立つ。
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(1)の解答
・分母分子を次数の高い項で割ればよい。
ここで、, , なので、
したがって、
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(2)の解答
・が利用できるように、分母(=1)と分子を操作する。
(と下枠の定理を使った。)
無限大に発散する数列の逆数の極限
数列が無限大に発散するとき、
数列が無限大に発散するとは、を大きくとればの値をいくらでも大きくできるということである。このとき、と書く。収束しない数列(極限値が定まらない数列)のことを発散する数列という。
数列の発散をε-N論法で書くと次のようになる。
無限大に発散するということの定義
数列が無限大に発散するとは、次が成立するということである。
ただし、は実数全体の集合を表す記号。
この定義を使って、上枠の定理を証明しよう。
(証明)
数列は無限大に発散するので、任意のに対して、ならばとなるような自然数をとることができる。このとき、次のようにできる。
任意のに対して、ならばとなるような自然数をとることができたので、数列は値に収束する。
(証明終わり)
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(3)の解答
・一番強い(大きな数になる)項で分母分子を割ればよい。
(下枠の定理を使った。)
指数関数と分数と収束
のとき、次の式が成り立つ。
(証明)
とおく。(なので) を自然数として、二項定理を使うと、
そして、任意のに対して、となるような自然数をとる。自然数がのとき、次のようにできる。
任意のに対して、ならばとなるような自然数をとることができたので、数列は値に収束する。
(証明終わり)
二項定理
は次のように展開できる。
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(4)の解答
・この問題は式に収束する数列が含まれており、ε-N論法を使わないとうまく解くことができない。数列が収束するということをε-N論法の定義によって書き直して解けばよい。
(i)のとき
数列は収束するので有界であり、ある整数を用いて、とすることができる。また、数列がに収束するから、任意のに対して、、かつ、ならばとなるような自然数がとれる。のとき、
任意のに対して、ならばとなるような自然数がとれたので、
(ii)のとき
とおくと、
したがって、数列に(i)の結果が利用でき、
(i), (ii)より、